FC2ブログ

やはりエウロパにはエビがいるのか?

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazon のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


木星の第2衛星であるエウロパは、氷でできた地殻の下に広大な地下海をもっています。多くの研究や観測から生命が存在しているのではないかと期待されていますが、肝心な海の化学組成や、生命活動の鍵を握る熱水活動の有無、またその熱水活動を引き起こす岩石の種類などはわかっていません。これらの情報があれば、エウロパ内にどのような生命・生態系が存在するかをある程度制約して考察することができます。

地球生命研究所の研究者らは、実験室内にエウロパの地下海と同じ状態を再現し、現在観測されている地下海の主要成分を保つためには、海底で熱水活動が起こっている必要があることを示しました。熱水活動は生命活動に欠かせないため、この成果はエウロパで生命が見つかる可能性を大きく後押しするものです。

研究グループが着目したのは、硫酸の循環です。エウロパは、火山活動を続けている木星第1衛星のイオから、常に大量の硫酸を供給されています。この硫酸が地下海に蓄積すれば、硫酸濃度の高い死の海になってしまうはずです。ところが、エウロパの表面に存在するのはナトリウムと塩素の化合物ばかりで、硫酸の化合物はありません。大量の硫酸がどこに行ってしまったのかは専門家の間で議論の的でした。

研究グループは、エウロパの海底の高圧・高温条件を模擬できる新規の熱水反応装置を開発し、地下海に供給された硫酸がどのような化学反応を起こすかを調べました。その結果、エウロパの海底に熱水活動があれば、この硫酸を化学反応によって除去することで、硫酸の無い海を保つことができることを示しました。

このような熱水活動があれば、効果的に海水中の硫酸を除去することができ、生命のエネルギー源となる水素などの還元剤が生成されます。玄武岩の熱水活動によって、エウロパでは生命活動が支えられているのかもしれません。

スポンサーサイト



2021-02-27 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

宇宙から持ち帰ったサンプルは安全なのか?

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


中国は月からのサンプルリターンに成功し、2020年12月6日には日本は小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンに成功しています。持ち帰られたサンプルは地球上の有機物が混入しないように厳重な管理下で開封・分析が行われます。サンプルリターンに限らず、宇宙に放出される探査機などは地球由来の物質で他の天体を汚染しないように厳重に洗浄・消毒が行われてきました。しかし近年の科学者は逆のリスクが気になり始めています。つまり、宇宙から地球に病原体が持ち込まれる可能性です。

近年、宇宙空間でもかなりの生物が生存可能であることがわかり始め、微生物はもちろん、クマムシのような進化した多細胞生物でさえ、宇宙空間で生き延びることができることがわかっています。宇宙空間どころか、2021年2月にはNASAの火星探査車「パーシビアランス」が、火星の生命の痕跡が残っているかもしれない地域に着陸し、2031年には火星からのサンプルリターンも行われることになっています。となれば、火星の生物が地球に持ち込まれる可能性が出てくるわけです。

そのため、NASA、JAXA、ESAなどの世界の宇宙機関は互いに協力しながら、地球外生命体によって地球が汚染されることを防ぐ取り組みに着手しています。たとえばNASAでは、米国・国立新興感染症研究所(NEIDL)を参考に設備を建設しようとしています。国立新興感染症研究所では、停電や病原体の漏洩、サイバー攻撃はもちろんのこと、常識では起こり得ないと思われるレベルの異常事態まで想定して設備を構築し、手順書を作成し、関係者は訓練を重ねています。

1980年代以降、生命化学や医薬品・病原体研究の領域で、バイオセーフティーレベル(BSL)という考え方が導入されています。 BSL-1では、大腸菌などのごくありふれた病原体が対象。BSL-2では、もう少し危険な黄色ブドウ球菌などが対象。BSL-3になると全身防護服や防毒マスクの装着が行われます。新型コロナウイルスはBSL-3で扱われます。そして、宇宙から持ち帰ったサンプルは今後はさらに高度なBSL-4で扱う方針をNASAは決めています。これは、エボラウイルスなど致死率が高く非常に危険な病原体と同じレベルで、今後、設計・建設が行われる予定です。

2021-02-26 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

月への熱視線

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


中国

2020年11月23日に打ち上げられた中国の月探査機「嫦娥5号」が12月17日、地球に帰還することに成功しました。月表面では、ドリルとロボットアームを使ってサンプル約500gを掘り起こしたほか、表面の砂も約1.5kg採取し、合計約2kgの月のサンプルを真空容器で持ち帰っています。

今回のミッションでは、月着陸船と大気圏再突入モジュールの二機が一組となって月周回軌道に入り、月着陸船は月への着陸とサンプル採取、そして離陸を行い、大気圏再突入モジュールは、月着陸船の真空容器を月面上空で受け渡して、月着陸船を再分離するという運用にも成功しました。これは、有人月探査で必要とされる、宇宙機同士の合体や切り離し運用に関する基礎技術の確認と成功と言えると思われます。

サンプル容器は、北京時間の12月17日未明に内モンゴル自治区の草原にパラシュートで着地し、すぐに回収され、12月19日からは分析の準備が始まり、サンプルの質量は合わせて約1.731kgだったと発表されています。今後実施されるサンプルの分析によって、月に関する情報や、太陽系の歴史に関する多くの知見が得られることが期待されます。中国は引き続き、2023年から2024年に月の南極のサンプル採取を目指す「嫦娥6号」の打ち上げを計画しています。

米国

 一方、米国NASAは、2024年以降になるとおもわれますが、アルテミス計画として月の有人探査を計画しています。将来的には人類文明史上初となる地球外コロニーの建設や、火星有人探査ミッションに必要なデータの収集などが行われるものと思われます。NASAが2020年12月7日に「アルテミス3(Artemis III)」ミッションに焦点を当てた報告書が公表されました。アルテミス3はNASAの有人月探査ミッションで、ここで得られる科学的知見は、月の資源を利用して、どのように持続可能なコロニーを建設するのかを検討する判断材料になることが期待されています。

たとえば、最も期待されているのは水に関する調査です。最近の観測で、月には当初予想されたよりも大量の水が、入手容易な状態で氷として存在することが判明しています。月に水があれば、月に移住した人類は、この水を利用して呼吸用の酸素、飲用水、ロケット燃料を作ることができる可能性があります。アルテミス3では、月の水分量を直接観測し、水がどのような状態にあるのか、永続的なのか、循環はどのようになっているのか、どれほどの範囲に分布しているのか、月の水から酸素や飲用水、燃料を作り出すアイディアは現実的なものなのか、等に関する重要な知見が得られることが期待されます。

その他、クレーターを調査することによって、地球や太陽系の歴史について新たな情報を得ること、月から地球を観測することによって、人工衛星よりも大型の観測装置を使って、より詳細に地球を観測できることが期待されています。それによって、稲妻、地球反射光量、大気化学、海洋科学、地球温暖化問題などさまざまな見識が得られる可能性があります。また、宇宙飛行士が、現地で地質調査をしながら、月の砂や岩石サンプルを持ち帰れば、着陸船によるサンプリングよりもより多くの情報が得られる点も期待できます。

2021-02-25 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

スペースX社の取り組み

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


スペースX社はファルコン9ロケットで次々に人工衛星を打ち上げたり、民間企業として世界初の国際宇宙ステーション有人往還機の開発に成功したりするなど、近年、米国の宇宙開発における重要性が非常に高くなっている企業です。

最近は、2020年12月9日に全長50メートル、重量110トンのロケット「SN8」の打ち上げを行いました。SN8は「スターシップ」8番目の試作機です。スペースX社が建造をめざすスターシップは、100トンの貨物や人員を積載し、地球・月・火星に着陸可能な、再利用可能・大型宇宙船です。

SN8の目的は、ロケット打ち上げと着陸に関するデータの収集で、SN8は高度1万2500mまで上昇した後、計画どおりエンジンを停止し、姿勢を水平に変更し、着陸台に向かって自由落下を開始、その途中で3基搭載されたエンジンの内、2基のエンジンを再点火して姿勢を垂直に戻して姿勢を制御。そのまま直立の状態で着陸する計画でしたが、エンジンの出力不足で着陸には失敗し、ロケットは爆発してしまいました。しかし、スペースXの創設者であるイーロン・マスク氏は十分なデータを取得することができ、今回の打ち上げは成功だったと語っています。

マスク氏の究極の目標は、人類を複数の惑星に住まわせることだといいます。1000機のスターシップを運用することを目指し、その過程で2026年までには火星の有人探査を成功させたい考えです。2002年の創業からわずか18年しかたっていません。人類を火星に住まわせるというマスク氏のビジョンの実現にはまだまだ時間が掛かるものと思われますが、そのような大きな目標を掲げることは、社内の士気を高め、スペースXの企業イメージの向上に寄与しています。

現在建造中の新しいロケットは、全長70mの大型ロケット「スーパーヘビー」で、このロケットを第一段に使用し、スターシップを第2段とすることで、スターシップをほかの惑星まで飛行させ、単独で着陸させることが可能になります。ロケットの全長は120mとなり、アポロ計画で宇宙飛行士を月に送り込んだ史上最大のロケット「サターンV」よりも大きくなります。この壮大なプロジェクトもスペースX社ならそう遠くないうちに成功させてしまうのではないかという勢いを感じます。

2021-02-24 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

物理法則に忠実なシミュレーションを行う人工知能

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


  物理現象の予測は、物理学に基づく方程式をスーパーコンピュータで解くことによってシミュレーションされますが、この時の方程式は、現実の世界を十分に再現できていないため、たとえば質量保存則を正確に再現できないなど、不完全な点を多く抱えています。たとえば、振り子の運動について考えてみると、理論的な方程式に基づく振り子は完全に物理法則に従う一方で、実際に振り子を作成して揺らしてみると、製作時の歪みなどが原因で、理論通りに動かないことがあり、シミュレーションと齟齬が生じる例などが挙げられます。そのように、従来の予測技術は、コンピュータがデジタル的であるために、現実世界での出来事を完全に取り込むことが難しいのです。

今回、神戸大学、大阪大学の共同研究チームは、自動微分による誤差逆伝播法と呼ばれる、人工知能の学習で用いられている技術のデジタル版を新しく開発し、それによってデジタル世界でエネルギー保存則などの物理法則を再現することに成功しました。開発した手法では、人工知能は、物理現象の観測データなどからエネルギー関数を学習し、デジタル世界での運動方程式を作成します。この運動方程式を、そのままシミュレーション用のプログラムとして利用することによって、自然界で起こる様々な物理法則を再現することが可能であることが確認されました。

本研究の技術によって、物理現象の予測の際、人が調整することが難しい、現象の細かい状況を反映したオーターメイドのシミュレーションが可能となり得ます。これは、既存のシミュレーションの精度を向上させるだけでなく、詳細が未解明であるためにシミュレーションが困難であった現象も、観測データなどから人工知能によって物理法則を抽出することで、予測可能になる可能性があります。
2021-02-23 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

四足歩行ロボット「Spot」の実用化に向けた研究

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために

鹿島建設、竹中工務店、竹中土木は、ソフトバンク、ソフトバンクロボティクスの協力を得て、米国・Boston Dynamics製の四足歩行ロボット「Spot」の建築・土木分野での実用化に向けた共同研究を開始することに合意しました。Spotは、犬型自律歩行ロボットで、階段や傾斜地にも強く、障害物を自ら回避する機能を有するなど、日々状況が変化する建設現場での活用に適しています。

SpotはガンダムSEEDに登場する四則型モビルスーツ「バクゥ」のようにユニットを換装することでさまざまな機能を持たせることができることから、建設業における協調領域の中で広く誰でも使える技術として、多くの建設現場で活用されることを目指します。

 おもな目標は2点
(1)建設現場におけるSpotの確実な歩行の実現
 Spotを確実に歩行させるためには、日々状況が変化する建設現場において、Spotの作動に必要な通信環境の構築が重要となります。建設現場それぞれの条件において、いかに効率的に必要な環境を構築するかを検証していきます。

(2)Spotの利用方法の探索・検証
 建設現場を管理する社員の業務負担の軽減を目的として、Spotの歩行・巡回機能を活かした業務支援機能を探索・検証していきます。具体的には、遠方に居ながら現地の確認や作業員とのコミュニケーションを図る機能、自動巡回により現場の進捗の記録や点検を行う機能、各所を測量・記録して施工した建造物が図面通りにできているか確認する機能などを検証していきます。

2021-02-22 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

人工衛星の黒塗装

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


  石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡による観測で、黒く塗装した人工衛星は塗装していないものに比べて、太陽光の反射率が半分程度に抑えられていることが実証されました。多数の人工衛星の運用が天体観測に影響を及ぼすと危惧されていますが、その影響の軽減が期待できます。

近年、宇宙利用の需要が高まり、多数の人工衛星を打ち上げて運用する衛星コンステレーション計画がいくつも立案、実行されています。人工衛星は太陽光を反射して輝くため、天体観測への影響が危惧されています。こういった影響を軽減するために、表面に実装された機器のうち、もっとも白いアンテナ部分と太陽光発電パネルの裏側を黒く塗装した人工衛星・ダークサット(次画像)が、2020年1月に、スペースX社のスターリンク衛星の一部として試験的に打ち上げられました。ダークサットの観測を3つの波長帯で同時に測定し、人工衛星の明るさを評価したところ、人工衛星は、黒く塗装すると表面の反射率が半分程度に抑えられることが明らかになりました。このような塗装を施すことで、天体観測への影響が軽減されることが期待できます。
2021-02-22 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

アンモニアをそのまま燃料にする技術

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために


  温室効果ガス排出削減に向けた取り組みは急務であり、特に発電分野の脱炭素化とCO2排出削減が大きな課題となっています。再生可能エネルギーの利用拡大を図りながら既存の火力発電の脱炭素化を実現することは、温室効果ガス排出削減と安定的な電力供給を同時に達成する上で重要です。

アンモニア(NH3)は小さな分子中に多くの水素原子を含むため、水素を保管・運搬する際に便利な水素キャリアであるとともに、それ自体を直接燃焼させることができる、二酸化炭素を放出しない燃料として期待が高まっています。東北大学の研究グループは、産業技術総合研究所との共同研究により、気体アンモニアを燃料とするマイクロガスタービン発電にすでに成功しています。しかし、気体アンモニアをガスタービンに供給するためには、蒸発器、気体圧縮ポンプなどの機器の追加が必要であり、それらのコストと運転に必要なエネルギーはアンモニアガスタービンの実用化を進める上で問題となっていました。

今回研究者らは、アンモニアを液体のまま噴霧燃焼を行うことで、既設ガスタービンの改造と補器エネルギーを最小限に収めることができる技術につながる燃焼技術の開発に成功しました。アンモニアは天然ガスなど炭化水素燃料に比較して燃焼速度が遅く、火炎安定が難しい特徴があります。今回の実験では、空気流の旋回強度を高めた燃焼器を用い、さらに温度を500 Kまで高めた予熱空気を供給することによって、液体アンモニア噴霧火炎を安定化させました。また、予熱空気流にメタンを混合しアンモニアとの混焼を行うことで、広い燃料濃度範囲で火炎安定が可能であることも示しました。小型、中型ガスタービンではアンモニア噴霧燃焼によりCO2排出の無い発電を実用化し、大型ガスタービンでは現在の液化天然ガス燃料を液体アンモニアで徐々に置き換えていくことにより燃料アンモニアの早期導入が図れることが期待されるため、今後とも技術開発を進めていく計画です。
2021-02-21 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

「はやぶさ2」カプセルが地球に帰還

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために

小惑星探査機「はやぶさ2」(すべて日本時間)
2014年12月3日13時22分:打ち上げ
2018年6月27日:小惑星リュウグウの上空20 kmの位置に到着
2019年2月22日:タッチダウン1回目
2019年7月11日:タッチダウン2回目
2019年11月13日:帰還運用開始、リュウグウからの離脱開始
2020年12月4日:地球帰還前の最後の軌道修正「TCM-4」成功
→ オーストラリアの「ウーメラ管理区域(WPA)」上空に向けて飛行
12月5日11時06分:カプセル分離のための運用開始
12月5日14時30分:地球から22万kmの位置でカプセル分離
12月5日15時13分:「はやぶさ2」本体を地球再突入コースから離脱させる軌道修正「TCM-5」開始
12月5日15時30分(30秒)、16時00分(30秒)、16時30分(25秒):スラスター4基を噴射
→ 地球離脱のための加速
12月6日2時28分:大気圏突入カプセルがオーストラリア上空で大気圏に約12度の角度で突入
12月6日2時30分頃:はやぶさ2本体が高度200-300kmで地球最近接地点を通過
12月6日2時32分:ウーメラ管理区域で待機していたカプセル回収班がカプセルからのビーコン電波を受信
→ パラシュート展開を確認
12月6日2時54分:ビーコンの信号途絶→カプセルの着地を確認
12月6日3時07分:着地予定エリアを取り囲む5箇所でビーコンの電波を受信した方角から着地点を推定。ヘリコプターによる捜索開始。
12月6日4時47分:ヘリコプターから地上のカプセルとパラシュートを目視で発見。
→ 日の出を待って6時23分からカプセルの回収作業開始、所用1時間で完了
 回収されたカプセルは現地初期観察施設(QLF)のクリーンルームに収納
12月8日:日本に空輸

今後は、拡張ミッションとして2027年12月と2028年6月に地球をスイングバイし、2031年7月に次の目的地、小惑星1998 KY26を接近探査することになっています。拡張ミッションの目標天体である1998 KY26は、直径30メートル程度の非常に小さな小惑星ですが、高速自転していることが特徴です。また、このような小天体は太陽系内に大量に存在すると思われており、地球衝突のリスクが高く、衝突した場合は大規模な被害を発生させるに十分な大きさであるため、1998 KY26を間近から観測することで、このような微小小惑星を近傍観測することで、微小天体衝突にどのように対処すべきかの情報が得られることが期待されます。その他、星などの天体が写っていない宇宙空間の明るさを測定することで、惑星間塵の地球近傍での分布の観測、搭載カメラで太陽系外惑星をトランジット法での検出も試みます。

2021-02-21 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

外科手術をいつ受けるか

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために

慶應義塾大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ハーバード大学の共同研究グループは、アメリカの65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、外科医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率が、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも高いことを明らかにしました。

誕生日に手術を受けた患者の死亡率は、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率に対して、23%も高く、これは臨床的にも無視できない意味のある差だと考えられます。

下の図の赤線はこの図に含まれた14日間以外の日に行われた、つまり誕生日から大きく離れた日程で行われた手術の平均死亡率です。

着信音や医療機器のトラブル、手術内容とは必ずしも関係ない会話など、手術中の外科医の注意をそらすような物事は多く存在しているといわれています。しかし、そのような手術中に注意散漫となる状況が、患者の死亡率に与える影響については、これまでほとんど検証されていませんでした。

本研究では、誕生日に外科医がより注意散漫になることや、手術をより早く終えようと急ぐことが原因で、パフォーマンスが変わるのではないかという仮説を立て、外科医の誕生日と患者の死亡率の関係を検証しました。本研究の結果は、外科医のパフォーマンスが仕事とは直接関係のないライフイベントに影響される可能性を示唆しており、医療の質のさらなる改善をはかる上で有益な情報を提供していると考えられます。

2021-02-20 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

身体のパーツがまたひとつ人工化に成功

【拙著新刊】
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために
技術評論社より3月8日発売予定、全国の書店・ネット通販で予約受付中です。
Amazozn のリンクはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4297120011/
今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために

口腔がん・舌がんの患者数は若年から高齢者に至るまで増加の傾向にあり、治療後の口腔機能の低下は患者の生活の質(QOL)を著しく制限しています。例えば、外科手術でがん を根治切除した後、切除された舌を再建する技術は向上していますが、再建された舌の部分が動かないことから、食物の飲み込みや会話の機能に障害が生じるという問題点が残っていました。舌の再建を必要とする口腔がんの症例数は日本で年間数百~千症例ほど存在すると予測されており、もし、機能的に動く「人工の舌」があれば、患者の口腔機能の再建に役立ち、生命予後とQOLの改善に役立つものと期待されます。

東北大学と、かとう嚥下クリニックの研究グループは、「完全埋込型の人工舌システム」の技術開発を進めており、この度、食物を飲み込む機能持つ人工舌を発明し、2020年11月に特許を取得しまた。

本システムは、形状記憶合金などを応用したアクチュエータ、体外から非侵襲的にエネルギーを供給する1次コイル、体内に埋め込まれる2次コイル、およびコントロールシステムで構成された世界で初めての「完全体内埋込型システム」です。例えば、患者さんが食物を飲み込もうとする時に、1次コイルを下顎部に皮膚の外から接触させ舌の動きを制御することで、嚥下機能を再現することができます。

また、嚥下機能の補助デバイスとして、植え込み型でない「サポーティングデバイス」としての応用も、計画されています。将来的には、自動制御システムを応用して、メインテナンスフリーの完全自動化も視野において研究を進めます。


2021-02-20 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

人間(生物)の免疫機能(物理的・化学的・生物的?)はいつ頃どうやって獲得されたのか?


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

物理的バリア(表皮細胞など)、化学的バリア(消化酵素を含む唾液の分泌など)については、進化の過程の自然選択説で獲得したとしか説明ができないものと思われます。すなわち、何らかのきっかけで遺伝子の発現に変異が生じ、幹細胞が表皮細胞へ分化する能力を獲得し、あるいは、たまたま消化酵素を作る遺伝子ができあがった結果、それらが生存に有利に働いた、と思われます。

 生物学的バリアについては、自然免疫と獲得免疫について分けて考える必要があります。というのも、自然免疫は、広く多細胞生物一般で見られる免疫機構ですが、地球上のほとんどの生物は自然免疫しか持っておらず、獲得免疫は人間を含むわずかな動物種のみが持っていることから、進化の系統樹の中で、おそらくは複数回、別々に獲得免疫が生まれたものと思われます。これは、眼などの感覚器官が様々な動物で発明され、収斂進化して今に至っていることからの推測です。

獲得免疫はサメなどの軟骨魚類から哺乳類までの有顎脊椎動物にしか存在していないことから、これを進化の系統樹に当てはめると、獲得免疫が有顎脊椎動物の出現初期に成立した事はほぼまちがいありません。一方、自然免疫はより古い起源を有し、関与するヒトの遺伝子の一部は非常に原始的な生物とも共通していることがわかっています。ここで、ヴォイニッチの科学書では初めて登場する「補体」というものについて紹介しなければなりません。

補体とは、動物の血液、リンパの中にみられる酵素様のタンパク質の一種で、感染防御や炎症などの生体防御にかかわる体液中成分の総称のことです。補体システムは自然免疫と獲得免疫の両方に重要な役割を果たしますが、補体は、これまでの系統発生学的研究からは脊椎動物などの後口動物に固有のシステムだと考えられています。なお、後口動物の対義語は前口動物で軟体動物や節足動物、ヒトデなどが含まれます。ところが、免疫的観点から見るとややこしいことに、ホヤは進化的に脊椎動物と共通の祖先を有するものの、ゲノム解読の結果からホヤには獲得免疫系遺伝子が存在しないことが明らかになっています。

獲得免疫がどのようにして生まれたのかの究極的な答えは不明ですが、抗体やT細胞に備わるセンサーの役目をするレセプターの遺伝子再構成に必須のDNA切断酵素の遺伝子の由来はDNAを渡り歩くトランスボゾンと呼ばれるウイルスのようなものにあると考えられており、太古の昔に脊椎動物が顎を持った頃に、どこからか染色体中に入り込んだのではないかと言われています。つまり、トランスポゾンが、生物が顎を持った直後に感染し、獲得免疫が備わるきっかけになったのではないかと思われるのです。一方で、このDNA切断酵素を獲得する直前に、進化の系統樹上枝分かれした、無顎類と呼ばれる生物にも、ヒトとは異なるものの、似たような獲得免疫があることから、さまざまなトランスポゾンがかつては暗躍しており、複数の生物系統に類似の獲得免疫を別々にもたらしたのではないかと考えられます。

ただし、顎のない魚類から顎のある脊椎動物が誕生するには、単に頭蓋骨に顎が加われば良いという問題では無く、頭蓋形態の抜本的な再編成が必要だと考えられています。そのため、顎の出現については現在でもどのように進化したのかについての定説は無く、化石研究から、オルドビス紀、約4億80000万年前以降のことだと考えられています。とすれば、獲得免疫の起源も数億年前までさかのぼらなければならない可能性があり、獲得免疫に関わる細胞は化石として残ることはほとんど無いため、その起源の解明は非常に困難です。

2021-01-31 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

「巡回セールスマン問題」を粘菌型コンピュータで解決


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

2007年7月、ヴォイニッチの科学書第166回で「粘菌問題」を取り上げました。これは、北海道大学による、粘菌には迷路問題を解く能力があるという研究でしたが、今回再び、北海道大学の研究グループは、Amoeba Energy株式会社と共同で、粘菌の探索行動から着想を得た新型アナログコンピュータを開発し、「巡回セールスマン問題」を解くことに成功しました。

物流配送計画や勤務スケジュール作成など社会の様々な課題は、最適な変数の組合せを探し出す「組合せ最適化問題」と呼ばれる数学的問題を解くことで解決できます。しかし、従来型デジタルコンピュータは、組合せ最適化問題の解決を苦手としています。このため、近年は量子コンピュータを含めた新型コンピュータの提案が相次いでいますが、この方式では解くべき問題をマシンが扱える形式に変換することが大変難しく、実用上のネックとなっていました。

研究グループは、この問題点を回避できる、アメーバが巧みに栄養物質を見つけ出す行動に着目して開発されたアナログ回路からなる新方式コンピュータ「電子アメーバ」によって、最適化問題の中でも難度が高い巡回セールスマン問題の解を迅速に探し出すことに成功しました。アメーバが変形するメカニズムをアナログ電子回路中の電子の動きで再現する独自の「アメーバコア」に、制約条件をコンパクトに表現する「抵抗クロスバー」を組合せた新方式のコンピュータ「電子アメーバ」を開発しました。

今回開発した電子アメーバにより、4つの都市を効率よく巡回する「4都市問題」の最短経路を探し出すことに成功しました。より大きな都市数の問題に対する探索性能を回路シミュレータを用いて調べると、電子アメーバが探し出せる巡回経路長は、無作為抽出法により得られた平均的経路長よりも常に短く、経路を探すために要する時間も都市数に比例する程度に抑えられることがわかりました。理論的には都市数が増えると経路の候補が爆発的に増加しますが、電子アメーバは全ての経路候補を参照しなくても短い経路を見つけ出すことができるのです。

生物が自然淘汰を経て獲得した探索能力をシンプルかつコンパクトな電子回路で再現した電子アメーバは、制約や要求が変わり続ける実社会の難しい課題の解決に貢献するとともに、身のまわりで活躍するIoTデバイスなどに組込み可能な小型で低消費電力の新原理コンピュータにつながるものと期待されます。

2021-01-30 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

統合失調症の新たな治療標的を発見


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

理化学研究所の研究グループは、核内受容体PPARαが統合失調症の新しい治療標的になり得る可能性を発見しました。統合失調症は、しばしば若者の心をむしばむほか、生涯罹患(りかん)率が約1%と発症率が高く、発症による労働力低下や医療コスト増大が改善すべき重要な課題となっています。

統合失調症の原因は、遺伝的要因と環境的要因がありますが、生化学的には、多価不飽和脂肪酸と総称される有機化学物質が、細胞核内受容体に特異的に結合する物質、つまり内因性リガンドとして遺伝子発現を調節することで、統合失調症の病態形成に関わる可能性が考えられています。

このような多価不飽和脂肪酸を内因性リガンドとする核内受容体としては複数のものが知られており、たとえば、PPARα、PPARδ、PPARγ、RXRα、RXRβ、RXRγなどがあります。研究グループは、これらの受容体タンパク質をコードする遺伝子について、統合失調症患者1,200人のDNAを用いて、シークエンス解析を行い、機能不全をもたらす可能性のある変異を探索しました。その結果、PPARαをコードする「PPARA遺伝子」において、統合失調症患者だけに見られる4種類の変異を発見しました。

次に、CRISPR/Cas9法を用いてPPARA遺伝子破壊マウスを作製して、それがマウスの性質にどのように表れるかを調べたところ、このマウスは、統合失調症に特徴的な行動を示すことが確認されました。また、マウスを解剖した脳の組織学的解析では、ヒトにおける統合失調症の死後脳解剖でも報告されている大脳皮質前頭前野のスパイン(神経細胞の樹状突起にある棘状の構造)密度の低下、スパイン形態の異常(未熟スパインの増加と成熟スパインの減少)が起きていることを発見しました。

PPARαの機能低下が統合失調症の病態形成に関わるのであれば、PPAαを活性化する薬剤(アゴニスト)が統合失調の治療に使用できるはずなので、すでに知られている統合失調症モデル動物を用いて、薬剤による改善効果の検討を行いました。その結果、モデル動物にPPARαアゴニストの一つであるフェノフィブラートを投与すると、脳の組織学的異常が改善することが分かりました。また、無処置のマウスに、フェノフィブラートを事前投与し、NMDA受容体阻害薬で統合失調症様症状を引き起こす事を試みたところ、フェノフィブラートを事前投与しなかった群に対して、フェノフィブラートであらかじめPPAαを活性化した群では、自発運動量の亢進が緩和され、統合失調症の症状が抑えられることが明らかになりました。

以上の結果から、PPARαの機能不全がスパイン形成不全を介して統合失調症の病態形成に関わり、PPARαが統合失調症の新しい治療標的になり得る可能性が示されました。ただし、今回の実験に用いられたフェノフィブラートには、重篤な副作用も報告されていることから、臨床応用に関しては、今後より副作用の少ないPPARαのアゴニストを開発するなどの工夫が必要であると考えられます。

2021-01-29 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

メタルスライムは実現できる


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

理化学研究所の研究グループは、無機材料と水のみを使用して、生き物のような力学物性を持つ「ハイドロゲル」の開発に成功しました。小説・アニメ「神達に拾われた男」では、さまざまなスライムが登場します。粘着液を分泌するスティッキースライム、毒を作るポイズンスライム、強い酸を作るアシッドスライム、汚れた物を清浄化するクリーナースライム、死体や汚物を食べて処理するスカベンジャースライム、病気や傷を治療するヒールスライム、無機金属からなるメタルスライムなどなどですが、これらは科学的には無機生命体と呼ばれる生きものだと思われます。なぜならば、体はゲル状で、内部にミトコンドリアやゴルジ体などの構造を持たず、それゆえ有機的な代謝機能は持っていないと思われるからです。小説家ジュール・ベルヌは「人間が想像できる物は必ず実現する」と語ったと言われています。であれば、さまざまなSFに登場する無機生命体の存在は、科学者に対し、無機物質のみを用いて、生体のような動的機能を実現できるのかという、挑戦的テーマを投げかけることになります。

生体は、水を豊富に含んで高い柔軟性を持つ一方で、無機物質は硬いことが一般的です。すでにスライムのようなものは玩具から機能性材料まで幅広く存在していますが、いずれも「生体模倣ソフトマテリアル」つまり、有機高分子ポリマーが使用されている有機物です。

そこで、研究グループは、無機物質として酸化チタンナノシートに着目し、無機ナノシートと無機ナノシートの間に働く相互作用を精密に制御することによって、生物のような振る舞いが実現できるかどうか、検討を行いました。今回用いた無機材料は、酸化チタンですので、金属であり、これはメタルスライムの実現に一歩近づくことになります。

酸化チタンナノシートは、厚さ0.75ナノメートルで、表面に高密度の負電荷を帯びた二次元物質です。これらが多数集まった状態は、水中では、ナノシートの間に静電斥力とファンデルワールス引力が働き、ラメラ構造と呼ばれる特殊な構造(層状の材料が交互に並んだ微細な構造)を持ちます。研究グループはまず、室温(25℃)でナノシートの濃度を徐々に上げていったところ、重量比8%以上で柔らかいゲルの性質を示すことが分かりました。これは、ラメラ構造におけるナノシートの動きが強い静電斥力によって制限されたからだと考えられます。

さらに温度を上昇させたところ、55℃付近で柔らかいゲルから硬いゲルへと転移しました。これもSFに登場するある種のスライムが持つ特殊能力や自身の形状を重力に逆らった状態で変形・維持する様子と酷似しています。この変化は、55℃以上ではナノシート間に働く静電斥力が弱まり、ファンデルワールス引力が支配的になることが理由です。この変化は高温に達してから2秒以内で完了し、低温にすると元のゲルに戻ることも分かりました。しかも、この動的プロセスは何度も繰り返すことができます。さらに、ゲルに光を熱に変換するナノ粒子を添加したところ、光を照射した箇所のみをわずか2秒で硬化させることに成功し、光照射を停止すると、自然冷却により4秒程度で元のゲルに戻りました。SFの世界では、魔法でスライムの特性を変えているように見せかけていますが、なんのことはない、服の袖に懐中電灯を隠すなどして、光熱変換を利用していた可能性があるのです。

 今回の研究はSFの世界のものと思われていた無機生命体を作り出すことが可能であることを示しただけでなく、これまでの有機ポリマーに替えて無機物質を用いた次世代のスマートマテリアルの開発にもつながる発見です。

2021-01-28 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

臨床用iPS細胞からグリア細胞の作製に成功


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

慶應義塾大学、大日本住友製薬株式会社の共同研究グループは、臨床用ヒトiPS細胞から効率的にグリア細胞(オリゴデンドロサイトなど)へ分化する臨床応用可能な誘導方法を開発し、脊髄損傷モデル動物の脊髄への投与により低下していた運動機能の改善を認めることを確認しました。

脊髄損傷に対する神経幹細胞移植による機能回復メカニズムの一つとして、移植細胞の再髄鞘化が重要であることが知られています。髄鞘は、神経細胞から伸びる軸索を覆うことで絶縁シートのように働き、脊髄内の非常に速い神経伝達を可能にしています。これまでもヒトiPS細胞由来の移植細胞による再髄鞘化の報告はありましたが、これまでの移植細胞はいずれも研究用のiPS細胞を使用したものであり、臨床用ヒトiPS細胞での分化誘導法の確立やモデル動物を用いた検証は報告されてきませんでした。今回、ヒトiPS細胞から作製した、グリア細胞に分化しやすい神経幹細胞移植により明らかな運動機能改善効果が得られたことから、本成果は臨床応用に向けて強力な後押しとなることが期待されます。

2021-01-27 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

悪玉むし歯菌と微小脳出血の出現との関連を解明


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

国立循環器病研究センター、大阪大学、慶應義塾大学の共同研究グループは、むし歯の原因菌(ミュータンス菌)のうち、脳の血管内のコラーゲンと結合することができるcnm遺伝子保有株(cnm陽性ミュータンス菌)が、微小脳出血の出現に関与することを明らかにしました。

脳卒中は、寝たきりになる筆頭原因で、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳内出血」および「くも膜下出血」に分類されます。脳出血は全脳卒中の20%程度を占め、比較的発症する年齢が若く、症状が重篤となりやすいことが知られています。脳出血は高血圧や糖尿病などの生活習慣病と関わりが深いですが、それだけでは説明できない部分が多く、未知の要因があると考えられてきました。研究チームは、2016年に、脳出血患者にはcnm陽性ミュータンス菌を持つ割合が多く、脳のMRI画像で観察できる微小な脳出血の跡が多いことを明らかにしていました。この「悪玉むし歯菌」を、日本人では5人に1人程度が口の中に保有していますが、実際にこの菌の保有者の脳内で微小な脳出血が増えていくのか、経時的な変化は明らかになっていませんでした。

そこで、研究グループは、脳卒中で入院した患者から歯垢を採取し、その中に含まれるミュータンス菌を培養し、cnm陽性ミュータンス菌と経時的な微小脳出血の出現率の関係を調査しました。その結果、cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者では、そうでない患者と比較して、微小脳出血の出現率が4.7倍高いことが明らかになりました。この「悪玉むし歯菌」は、生活習慣や年齢の影響によってほころびが出た脳血管のコラーゲンに接着し、炎症を起こし、出血を止める血小板の働きを抑制することで脳出血を引き起こすのではないかと考えられています。

日本では欧米諸国と比べてまだまだ脳出血が多く、口腔内の悪玉むし歯菌を減らすために、口の中を清潔にすることが有効であると考えられます。
2021-01-26 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

ヒトはどのように姿勢を安定化させるのか?


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

大阪大学の研究グループは、若年者、高齢健常者およびパーキンソン病患者を含む数百人から計測した静止立位姿勢動揺データの解析を行い、各個人の姿勢変動を再現する姿勢制御モデルを確立しました。その結果、健常者の立位姿勢はスイッチド・ハイブリッドシステムと呼ばれる非線形制御によって安定化されていること、および、高齢者やパーキンソン病患者における姿勢の不安定化は適切なスイッチが行われなくなることに起因することを、世界ではじめて明らかにしました。

これまでの仮説では、ヒト静止立位は単純な線形フィードバック制御で安定化されていると考えられてきました。この従来モデルでは、実際のヒトが、静かに立位を維持している際の姿勢動揺(重心動揺)を再現するために、非常に大きな内的ノイズ源を仮定する必要がありました。それが何なのかを説明することが困難で、そこに仮説の無理が生じていました。

実際に、ヒトの立位姿勢は比較的大きな振幅で動揺しています。これは立位姿勢時の身体の関節が柔軟性を有していること、および、それにも関わらず、様々な環境の変化に対してもヒトは頑健(ロバスト)に立位姿勢を維持できることを意味します。そこで、研究グループは、従来仮説で用いられてきた線形フィードバック制御の仮定自体が不自然であると考え、姿勢の柔軟性と頑健性を自然に達成できる仕組みとして、立位姿勢の間欠制御仮説を世界に先駆けて提案していました。

間欠制御は非線形制御の一種で、立位姿勢に依存した適切なタイミングで、線形フィードバック制御が、一時的かつ間欠的に停止します。通常、姿勢を安定化するためのフィードバック制御をオフになどしたら、姿勢は不安定化してしまうのではないかと思われるかもしれませんが、実際はその逆のことが起こります。すなわち、間欠的に制御をオフにした方が、姿勢の柔軟性を保ったまま、より頑健に姿勢を安定化できることが理論的に明らかにされたのです。

2021-01-25 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

アレシボ天文台の望遠鏡崩壊


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
Twitter @cradiobio
アマゾン著者セントラルもあります。著者フォローを是非よろしくお願いします。

※この配信で紹介したアレシボ電波望遠鏡のワイヤー破断事故ですが、番組収録後の現地時間2020年12月1日午前7時56分に、900tの受信機プラットフォームが約120m下の反射鏡へ落下して、望遠鏡は完全に崩壊したことが報じられました。事故による負傷者はいなかったものの、周辺施設にも被害が出ています。受信機を吊すために反射鏡の周囲に建設された高さ約140mの3基のタワーが崩壊したものです。したがって、番組内容は900トンの受信機が落下する前の情報となっている点につきご容赦ください。

カリブ海北東部、プエルトリコにあるアレシボ天文台は、SRIインターナショナル(スタンフォード研究所)、宇宙研究大学連合、プエルトリコ・メトロポリタン大学により運営されている天文台で、設置された電波望遠鏡は、2016年に中国の500メートル球面電波望遠鏡(FAST)が完成するまで、1963年の建設以来、世界最大の電波望遠鏡の座を維持していました。

望遠鏡の直径は305メートル。カルスト地形の窪地を利用して球面反射面が造られ、3本のマストで高さ150メートルに重量900トンの受信機が吊り下げられている固定式のアンテナです。

アレシボ天文台の望遠鏡崩壊

アレシボ天文台でなされた発見は、水星の自転周期が59日であることを発見(1964)、宇宙に中性子星が存在する最初の確固とした証拠(1968)、パルサーPSR B1257+12を公転している初の太陽系外惑星を発見(1992)、重力波がパルサーと呼ばれる天体から放出されていることを証明し、この成果は1993年のノーベル物理学賞に輝きましたが、どちらかというと、ハッブル宇宙望遠鏡などに比べると地味でした。一方で、地球外知的生命体探査との関わりが深く、1974年にはM13ヘアレシボ・メッセージが送られました。また、1999年から行われているSETI@homeにおいてはアレシボ天文台で受信された電波データの解析が行われています。

ところが、2020年8月10日、電波望遠鏡の副鏡の金属製フレームを支える補助のケーブル2本が突如破断、そのまま主鏡に向けて落下し、主鏡に30メートル強の裂け目を生じさせました。この事故により、補修が終わるまで天文台の運用が中止されることとなったところが、2020年11月にはメインケーブルが切れて再び破損が生じ、11月19日に運用終了の判断が成されました。

 運用期間は57年に及びました。900トンの受信機の落下や、崩壊の恐れがあり、修復作業自体が危険なため、望遠鏡は解体されることになります。子どもの頃、アレシボ天文台に触発されて天文に興味を持った人も多いことと思います。

 アレシボの電波望遠鏡が運用をせざるを得なくなった背景にも気候変動があります。この10年、プエルトリコは相次いで巨大台風に見舞われ、望遠鏡が損傷したこともありました。最近は群発地震も起きており、これもアンテナの制度に影響を与えた可能性があります。

アレシボ天文台の望遠鏡崩壊
2021-01-24 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

鳥類の繁殖活動への騒音と人工光の広域影響


この記事は科学のポッドキャスト「ヴォイニッチの科学書」です。 毎週1テーマを紹介する無料版は Apple Podcast で聴くことができます。 追加の科学情報、新型コロナウイルス感染症情報の番組とPDF資料も付く有料版はオーディオブックジェーピーで月額700円(+税)で配信中です。定期購読はこちらからお申し込みいただけます
アマゾン著者セントラルもご利用下さい。

北海道大学とカリフォルニアポリテクニック州立大学の研究グループは、アメリカ全土における142種の鳥類の繁殖活動に騒音と人工光が大きく影響していることを明らかにしました。

2000~2014年にアメリカ全土で市民科学者によって収集された142種・58506件の鳥類の繁殖活動データと高解像度の人工光・騒音の空間分布図を用いて、騒音と人工光が鳥類の繁殖活動に与える影響を定量化しました。その結果、静かな環境と比較して大きな騒音に晒された環境では、森林性鳥類の巣内に産み落とされた卵の数と繁殖成功率(雛が巣立つ確率)がそれぞれ約12%及び約19%低下しており、抱卵放棄率も約15%増加していました。

暗い環境と比べて強い人工光に晒された環境では、開放地性鳥類及び森林性鳥類の双方が3~4週間早く卵を産んでおり、森林性鳥類では巣内に産み落とされた卵の数が約16%増加していました。生物多様性に対する騒音と人工光の影響緩和策の必要性を示す重要な成果です。

2021-01-23 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :
ホーム  次のページ »

おびおのプロフィール

おびお

Author:おびお
会社員をしながら科学のコンテンツを作ってます。書籍とか、トークライブとか、セミナーとか、ネットラジオとか、Webコンテンツとか。
ツイッターアカウント:@cradiobio
ものことごはん:http://obio2.blog.fc2.com/

スヴァールバルの画像保管庫

スポンサードリンク

スポンサードリンク

ワトソンの検索窓

ロザリンド・フランクリンのダイアリー

02 | 2021/03 | 04
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

QRコード

QR