老いるほど高リスクの仕事を引き受ける

シロアリやアリ・ハチなど社会的生活を営む昆虫は巣の中で、生殖、育児、巣作り、掃除、採餌、防衛などの役割を分担しています。中には年齢によって仕事が変化する場合もあります。

例えば、ミツバチは、羽化して間もない頃には育児を行い、年を取るとエサを取りに外に出るようになります。このように生まれてからの経過時間によって役割が変わる理由としては2通りが考えられます。

一つは成長するにしたがって仕事をこなす能力が変化するから、もう一つは余命の短い年老いた個体がリスクを負った方が、機会損失が小さいから、です。

どちらの考え方が正しいかを調べるために、京都大学の研究者らは兵隊シロアリを使った実験を行いました。兵隊シロアリには巣の入り口付近の最前線で戦うシロアリと巣の中心付近で女王アリを守るシロアリの二種類がいます。当然、死亡リスクは最前線の兵隊が高くなります。


実験的な巣でシロアリを飼育した結果、予想通り、年老いた兵隊シロアリが死亡リスクが高い最前線で防衛を行うことが明らかとなりました。若いシロアリも年老いたシロアリと同じレベルの戦う能力を持っていることは別の実験で確認されていますので、戦う能力は同じであっても、より危険な現場に年老いたシロアリが配置されていた、ということです。

さらに、人工的な巣の中で若いシロアリと年老いたシロアリを混ぜたところ、30日後には若いシロアリは巣穴中央の女王の近くに集中して分布し、年老いた兵隊シロアリは外部に多く分布していることが明らかになりました。シロアリは仕事をこなす能力の違いではなく、余命の短い個体が高いリスクを取るという機会損失の最小化の原理によって兵隊内での分業が行われていることが示されたのです。

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2018-04-26 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

新しい近視モデルマウスを確立

眼球に入った光が網膜より前方で焦点を結ぶ状態を近視と呼びます。多くの近視は、眼球が前後方向に伸びることによって起こります(次図)。

新しい近視モデルマウスを確立

人類の3分の1が近視だと言われているにもかかわらず、いまだになぜ近視が発生するのか、近視が悪化するのはどのような仕組みによるものかは解明されていません。

近視の研究があまり進まない理由の一つは、近視の動物で研究を行うことが難しいためです。 ヒヨコは目玉が大きいので、近視のヒヨコを作る技術は確立されています。眼の前に凹レンズを設置して近視を誘発するレンズ誘導近視と呼ばれる方法があるのですが、慶應義塾大学の研究者らは、これを眼球の小さなマウスに適用する方法を考えました。

研究グループは3Dプリンターでマウス専用のレンズフレームを作り、高精度に眼軸長の変化を測定できる全眼球光干渉断層計という新しい技術と組み合わせることで、信頼性の高い近視モデルマウスを構築しました。

アトロピンという化学物質は点眼すると近視進行抑制作用があることが知られていますが、なぜこの薬にそのような効果があるのかは不明なままです。今回の研究によって、マウスで近視を再現できるようになったことから、このような薬が効く理由が明らかになり、それがきっかけとなって近視治療薬の研究が進展することが期待されます。

2018-04-25 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

1細胞解像度の脳地図

東京大学の研究者らは脳細胞1個ずつを識別できる、一細胞解像度のマウス脳地図を作成することに成功しました。

今回新たに開発された方法は、近年発展の目覚ましい組織透明化技術に、脳全体を体積比で10 倍ほどに膨潤させることで高解像度を得るという斬新なアプローチを組み合わせた点がポイントです。この新たな全脳膨潤・透明化手法は「CUBIC-X」と命名されました。  

これによって、マウスの成長過程ごとの細胞の数や存在場所を明らかにしたり、薬物を飲ませたマウスから脳を摘出してCUBIC-X処理してすべての脳細胞から活性化された細胞群および抑制化された細胞群の分布を1細胞レベルで観察したりすることに成功しました。

1細胞解像度の脳地図


2018-04-24 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

オスを作った小さな遺伝子の発見

遺伝子を次の世代に伝える方法は生物の種類によって様々ですが、精子のような小さな配偶子をつくるオスと卵のような大きな配偶子をつくるメスのように両性の機能や形態が大きく異なるものが多数派です。

一方で、原始的な単細胞生物は配偶子の大きさが同じ「同型配偶」と呼ばれ、オスとメスが完全に分離していません。進化的には同型配偶が先に現れ、進化の過程でオスとメスが分離したと考えられています。 東京大学の研究者らが緑藻ボルボッス類を用いた研究で、オスとメスの両性の仕組みが誕生するとき、オスだけが持つ小さな遺伝子 “OTOKOGI”(オトコギ=遺伝子の名前)が関係したことを、性染色体遺伝子の解読によって明らかにしました。

ボルボックスの仲間でもヤマギシエラとユードリナは緑藻の形態としては非常に似ていますが(次写真)、有性生殖の点では大きく異なり、ヤマギシエラは同型配偶、ユードリナはオス・メスの配偶子をつくります。両者はオスとメスが誕生した直前と直後に相当する生物と考えられています。


オスを作った小さな遺伝子の発見

ユードリナのオスの性染色体には非常に小さく、その中にオス特有のオトコギ遺伝子が含まれています。ユードリナのメスの性染色体はオスの10倍以上の大きさがあり、そこにメス特有の遺伝子が含まれています。このことは、地球生物のオスの始まりは、もともとは共通だった性染色体の一部分に遺伝子変異が生じ、それがオトコギ遺伝子として機能進化した可能性を示しています。


2018-04-23 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

宇宙エレベーター用材料の耐久性試験

大林組は宇宙への移動手段として宇宙エレベーターの建設を検討しています。

地球と宇宙ステーションの間にケーブルを渡し、エレベーターのゴンドラのような昇降機で地上と宇宙空間を行き来する乗り物が宇宙エレベーターです。燃料消費もロケットよりはるかに少なく、搭乗者への負担も小さい未来の宇宙往還手段として実現が期待されています。

下のCGは大林組が考えている宇宙エレベーターで、南極よりも遠い地上3万6000kmに設置した宇宙ステーション(滞在、観光施設)まで時速200kmで1週間かけて移動します。さらに遠い未来には宇宙ステーションを宇宙ハブ空港として火星行き、アンドロメダ銀河行きなどの宇宙船が発着するかもしれません。

宇宙エレベーター用材料の耐久性試験

ケーブル材料として期待されているカーボンナノチューブは鉄筋の4分の1の軽さで、鉄鋼の約20倍の引張強度がありますので今後の人類の宇宙進出においてインフラから宇宙船まで幅広い活用が期待されています。

そこで、大林組は国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で2015年4月からカーボンナノチューブの宇宙空間での耐久性の検証を続けています。 国際宇宙ステーションは秒速9キロメートルもの高速で飛行しています。この環境で直径約20ナノメートルの多層カーボンナノチューブ繊維をより合わせたものを最長2年間放置し、回収ののちに地上で電子顕微鏡観察したところ、ISS進行方向の前面で曝露したものは大きく損傷していることがわかりました。

ISSが周回する地上400km付近は、酸素などの大気成分が原子に分解されて存在しているといわれています。そのような原子がカーボンナノチューブに衝突して傷つけます。この結果は、地上で実施した曝露条件試験と高い相関性を示しており、地上での試験が宇宙環境での損傷状態を類推するのに有効であることも確認できました。  

今後は原子構造レベルでの損傷メカニズムを究明していくとともに、カーボンナノチューブの損傷を抑制するための耐久性向上対策技術の開発に取り組まれます。


2018-04-22 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

しっぽ切りも何度か再発見されたらしい

現代の多くのトカゲは敵に捕まった時にしっぽを切って逃げますが、3億年前の爬虫類もしっぽを切り離すことができたことがカナダ、トロント大学による爬虫類化石の研究から明らかになりました。

調べたのはカプトリヌスという、体重2キロの爬虫類です。化石にはしっぽを切り離すためのミシン目のような亀裂が明らかに存在していました。ミシン目は若い個体に多く見られ、おとなの骨ではその部分がしっかり結合しているようでもありました。若い個体ほど敵に襲われる危険性が高いことから、成長するにしたがってこの機能が失われていったと研究者は考察しています。カプトリヌスは、3000万年もの間繁栄をつづけましたので、こうした機能が生き残るのに優位に働いた可能性があります。

しっぽ切りも何度か再発見されたらしい
カプトリヌスの化石(福井県立恐竜博物館)  

ところが、2キロもある爬虫類は地球環境の変動に対しては不利だった可能性もあり、しっぽ切り機能はその後いったん化石記録から途絶えます。再び現れるのは今から7000万年前のことで、多くの現在生物の器官同様に、しっぽ切りも地球上で何度か再発明された可能性があります。


2018-04-21 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

努力は報われるのか?

40年の仕事人生をシミュレーションしてみた結果

世の中には才能があっても貧乏な人、才能がなくても裕福な人もいて、単に能力だけで貧富が決まっているようには思えません。

そこで、イタリアのカターニア大学の研究者らが、コンピューターの中で仮想の人の人生を大量に作り出し、人が裕福になるのを決める要因を調べたところ、それが運であることを明らかにしました。

富の配分には「80:20の法則」という有名な法則があります。富の80%は20%の人によって所有されているという考え方です。世界の人口は75億人ですが、世界トップの富豪8人の合計財産が、貧しい側の38億人の人々の合計財産と同じだといいます。 世の中は実力主義であり、その人の才能、知能、努力などによって報酬が変わると考えている人もいます。ですが、人の能力には、貧富の差ほどの大きなばらつきはありません。

ですが、実際は裕福な人のところにさらに富は集中するように社会はできています。 カターニア大学の研究者らはコンピューターの中に、現実の人間と同じ程度の能力のばらつきがある複数の人を再現しました。その仮想の人たちそれぞれに40年の労働生活を設計し、仮想人は幸運な出来事を利用して富を増やすこともでき、一方で不運な出来事によって富を減らすこともある、そういった人生の運と不運をランダムに起こしました。

仮想人40年の仕事人生をシミュレーションしたのちに、それぞれの仮想人の人生を富の観点から解析しました。その結果、80:20の法則が仮想人でも自然と導き出され、最も富のある人々は最も幸運な人々で、富の少ない人々は不運な人々であることがわかりました。

努力は報われるのか?

2018-04-20 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

機能性を持つシルク

シルクは、カイコが産生するタンパク質で、高級衣類に使われます。ですが、日本の養蚕業は小規模で行われ、後継者の問題も抱えているうえに、シルクとそん色ない高機能化学繊維に市場も圧されています。農研機構では養蚕業を未来に伝え、さらに高機能なシルクを作って養蚕業の価値を高める研究が進められています。

シルクの高機能化の手法として、シルク糸を化学的に加工する方法や、カイコの遺伝子を組み替える方法などがありますが、より優れた方法として、2014年に、様々な機能分子を簡単につなげられる「結合の手」をもったシルクが開発されました。当時はコストの問題等があったため、改良が続けられてきました。

機能性を持つシルク

アミノ酸でできた結合の手を持ったシルクは遺伝子組換えカイコに、特殊な飼料を与えることで得られます。 こうして生産されたシルクの結合の手に、化学反応で機能分子をつなげることで、単一のシルクから様々な性質をもつシルクを簡便・迅速に作出できます。  

この方法で高機能化されたシルクは例えば、色落ちしにくいカラーシルク、保湿機能や抗菌機能を持った衣料用途、薬剤を結合した衣料用途などへの展開が期待されます。


機能性を持つシルク

2018-04-19 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

X線ハーモニックセパレーター

理化学研究所放射光科学総合研究センターの共同研究チームは、新しいX線光学技術「ハーモニックセパレーター」を考案・開発し、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAにおいて従来よりも100倍明るいX線レーザービームを作り出すことに成功しました。日本の材料研究や物質解析の強力な武器になります。  

大型放射光施設「SPring-8」など従来のX線光源は、放射されるX線がたくさんの波長を含むので、分光器を通して特定の波長のX線のみを抽出して使用しています。そのため、X線の威力が落ちてしまう問題がありました。取り出せるX線の威力が強いほどより高速・精細な研究を行うことができます。  

今回、共同研究チームは、全反射ミラーとX線プリズムを組み合わせたハーモニックセパレーターという光学技術を考案しました。この方法ではまず、X線を全反射ミラーに入射して、抽出波長よりも短波長のX線を取り除きます。さらに、プリズムを通した後にスリットを使って、抽出波長よりも長波長のX線も除去することで、分光器を通すことなく特定波長のX線を抽出することに成功しました。


この光学技術によって従来のSACLAのX線と比較して、約100倍の強度のX線レーザービームを作り出すことに成功しました。今後、開発した光学技術によって、従来よりも2桁以上明るいX線の利用が可能になり、X線計測の飛躍的な性能向上が期待できます。

X線ハーモニックセパレーター


2018-04-18 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

世界最古の巣穴化石

名古屋大学博物館が米国ウィスコンシン大学などとの共同研究で、モンゴル西部のエディアカラ紀後期(約5億5000万年前)の地層から海底下に潜入する生物の巣穴の化石を大量に発見しました。

世界最古の巣穴化石

この巣穴化石は当時の海底下に4センチ潜って生活していた動物の巣穴で、丸いパイプ状となって地中でU字型に曲がり、出口と入り口両方が海底に開いています。  

これまでの研究では、海底に巣穴を作る生物が誕生し、活発に活動を始めたのは5億4000万年前以降のカンブリア紀のことだと考えられていましたが、一部の地域ではそれより前のエディアカラ紀から生物による活発な巣穴形成が始まっていたことが今回の研究で明らかになりました。  

このような巣穴を形成する動物はミミズのような手も足もないチューブ状で、一方の端(頭とも顔とも言えない)で摂食を行い、他方で排泄を行う運動性を持った動物であったと考えられます。巣穴を作って暮らす生物がエディアカラ紀に存在していたことがわかったことは大発見です。こののちの時代、カンブリア紀に生物種の多様性が爆発的に広がる、カンブリア爆発が起きたことが知られていますが、そのきっかけは何だったのかということを解明するにあたって重要な知見であると思われます。

世界最古の巣穴化石

2018-04-17 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :
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おびおがしかし

Author:おびおがしかし
会社員をしながら科学のコンテンツを作ってます。書籍とか、トークライブとか、セミナーとか、ネットラジオとか、Webコンテンツとか。でも、楽しいことしかしません。楽しいことしかできない病、TD! それがおびおなのです。
苦手な食べ物:シーチキン、レバー、昆虫系
Web:ヴォイニッチの科学書
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