脂肪燃焼体質とゲノムの関係

寒さは死につながる危険な環境です。恒温動物は寒さに耐えるために脂肪を燃焼し熱を体内で作り出す仕組みを持っています。その役目を担っているのがエネルギーを脂肪として貯める白色脂肪細胞と、脂肪を燃焼し熱を産生する褐色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は寒くないときでも常に休眠状態で存在し、寒さの刺激が加わると短時間で急激に脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子を活性化し、熱を生み出し始めます。

最近、「ベージュ脂肪細胞」とよばれる第二の熱産生脂肪細胞の存在が明らかになりました。褐色脂肪細胞は誕生直後から多く存在するのに対し、ベージュ脂肪細胞は誕生後に寒さに適応していくために新たにつくられる誘導型の熱産生脂肪細胞です。

脂肪細胞がこのように3種類で分業している様子を遺伝子レベルで解析してみると、褐色脂肪細胞では、脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は常に「活動中」のフラグが立っています。一方で、脂肪を貯めることが役目の白色脂肪組織では、脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は「休止中」のフラグが立っています。そのため、白色細胞は脂肪を燃焼する遺伝子は持っていますが、寒さの刺激があってもすぐに脂肪を燃焼させることはできません。

マウスを急に寒冷状態に置くと、遺伝子の寒さに反応するための特定部位にあるセリンという分子にリン酸が結合してフラグが立ち、熱産生に必要な機能が発動することが明らかになっています。 セリンをアラニンに置き換えると、アラニンはリン酸が結合できないために、フラグを立てることができず、マウスは寒さに対応できず、顕著に体温が低下します。

通常は白色脂肪細胞は寒冷環境が続くと一週間程度でゆっくりと熱を生み出す機能が活動を始め、ベージュ細胞に変化して熱を生み出し始めますが、フラグを立てることができないマウスの白色細胞は熱を生み出せず、寒冷への適応力が低下していることが明らかになりました。

ベージュ脂肪細胞は、熱を作るときに糖や脂肪を活発に消費します。ベージュ脂肪ができないマウスに栄養価の高い食事を与えると、インスリンの働きが悪く、高インスリン血症になることもわかりました。このことは、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞化を促す薬は、これまでとは全く異なる仕組みで作用する2型糖尿病の治療薬になる可能性があります。


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2018-06-07 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

愛称は「せいめい」

岡山県で設置が進められている京都大学の口径3.8m望遠鏡の愛称に、平安時代の陰陽師・天文博士の安倍晴明(921-1005)にちなんだ「せいめい」が公募で選ばれました。せいめいは、東アジア最大となる口径3.8mの光学赤外線望遠鏡で、今年、2018年8月から本格的な科学観測を開始する予定です。

愛称は「せいめい」

観測対象は主に「スーパーフレア」「ブラックホール連星」「ガンマ線バースト」「太陽系外惑星」の4つです。

《スーパーフレア》
愛称は「せいめい」

太陽は時々表面で大きな爆発が起きて人工衛星の電子機器が破壊されたり、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士が安全区域に避難したりしていますが、それよりも数十倍も大きなフレアが宇宙では起きています。そういったスーパーフレアがどういう仕組みで起きるのかを観測します。 上の写真は2011年6月に観測された太陽フレアです。画面右下で太陽の表面が爆発しています。

《ブラックホール連星》
愛称は「せいめい」

ブラックホールと普通の星がペアを作っている天体をブラックホール連星と呼びます。ブラックホールがパートナーの星からガスを吸い込むとき、ブラックホールの周囲には膠着円盤と呼ばれるガスの円盤ができますが、そこからは強烈なエックス線が放出されています。放出されるエックス線はブラックホールの巨大な重力によって激しく変動しますが、その変動を観測することによって謎に包まれたブラックホールの性質を明らかにすることを試みます。

《ガンマ線バースト》
愛称は「せいめい」

ガンマ線バーストは宇宙空間で突然発生する現象です。非常に重い星の爆発や、恒星同士の衝突が原因ではないかと推定されていますが、まだ正体はわかっていません。いつどこで発生するかわからないため、日本国内に設置された大学所有の天体望遠鏡という機動性や運用の柔軟性を生かして、突然起きるこの現象の謎を解明します。

《太陽系外惑星》
太陽系外惑星観測についてはこれまで、中心の星の手前を横切ることによる影の観測は行われていますが、太陽系外惑星そのものが反射して放出する光の観測はほとんど行われていません。惑星で反射された光を観測することによってその惑星に大気があるのか、植物があるのか、そのようなことがわかります。


2018-06-05 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

骨の欠損を印刷した骨で補う

理化学研究所と株式会社リコーの共同研究グループは、骨の外部、または内部が欠損し、外科的対処が必要な患者の骨の欠損部位を3Dプリンターで印刷した骨で補充する技術を開発しました。現在はセメントタイプの人口骨が広く使用されています。

今回使用された印刷技術はバインダージェット方式と呼ばれるものでリン酸カルシウムの粉末と新開発の凝固インクを用いた粉末積層方式です。作製した人工骨の生体適合性は良好で、印刷で作られた骨に周辺の骨形成細胞が付着して増殖し、速やかに本来の骨組織に入れ替わることを確認しました。

骨の欠損を印刷した骨で補う

上の写真は印刷で作成した骨代替造形物です。小さな隙間が内部まで展開していてここに骨を形成する細胞が入り込むことができます。 3Dプリンターを用いて金属を印刷した人工骨が先行して開発され、欧米では既に整形外科や口腔外科などの分野で実用化されていますが、純チタンやアルミニウム・バナジウム・チタン合金を用いるために本来の骨組織と入れ替わることがなく、いつまでも体内に残存することが問題の他、金属アレルギーなどの副作用が懸念されていました。  

次の写真は従来の方法で骨を補充した場合と新しい方法の比較です。従来の方法では4週間たっても変化はありませんが、新しい方法では4週間目には周辺から骨が形成され、自身の骨との一体化が進んでいることがわかります。

骨の欠損を印刷した骨で補う


2018-06-04 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

日本人特有の遺伝子進化は?

人類はこれまで周囲の環境に対応して自分自身を変化させていく適応進化を遂げてきました。適応進化の過程では、生物の設計図であるゲノム配列の多様性を拡張することが大きく関係しているため、生活環境や地理的条件に応じて遺伝子の変化はパターンが異なります。

たとえば、ヨーロッパ大陸の欧米人集団では寒い北方の地に進出する過程で身長が高くなりましたし、高所に住むチベット人集団では低酸素環境への適応が進みました。ですが、日本人は目立った肉体的特徴がないため、日本人集団がどのように適応進化したかについてはよくわかっていませんでした。

そこで、理化学研究所と大阪大学、慶應義塾大学の共同研究グループは、日本人2,200人のゲノム配列情報に基づく適応進化の解析を行いました。 全ゲノム解析の結果、過去数千年間の日本人の四つの遺伝子領域(ADH1B遺伝子、MHC領域、ALDH2遺伝子、SERHL2遺伝子)が特徴的に変化してきたことがわかりました。 

さらに、日本人集団の適応進化に影響を与えた病気の発症や遺伝的特徴の個人差について検討した結果、日本人の遺伝子的特徴はアルコール代謝や、脂質や血糖値、痛風など栄養代謝に関わる部分であることがわかりました。どうりで外観からは特徴づけられないはずですし、日本人にも特有の遺伝子進化があったことが確認されたことにもなります。

また、人間の遺伝子全般にネアンデルタール人のような既に絶滅した他のヒト属由来のゲノム配列が数パーセント混入し、それが適応進化に影響を与えている可能性が指摘されています。今回の研究の中でネアンデルタール人由来ゲノムの日本人への影響も併せて調査を行いましたが、日本人の特徴へのネアンデルタール人の明らかな影響は確認されませんでした。

2018-06-03 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

生きた脳の永久保存

生きている人間の脳にハイテク死体防腐処理加工を施して構造をそのまま保存し、何百年も保管できるようにするサービスを計画しているスタートアップ企業がプレゼンテーション番組TEDに登場して話題になっています。この会社はマサチューセッツ工科大学の卒業生が創業したネクトーム(Nectome)社です。将来の科学の進歩により保存した脳からコンピューター上に情報を復元することを期待しています。  

このハイテク死体防腐処理加工は、現在身体の保存に用いられている極低温での冷凍保存ではなく、脳をガラス化するため、電源や装置の故障を心配することなく、数百年、もしかすると数千年間脳を保存できる可能性があります。未来の科学者はこのガラスの脳をスキャンして、コンピューター上でシナプスネットワークを再構築し、そこに記録された情報・・・記憶や人格・・・を復元します。

ネクトームは、この手法を使ったブタの脳の保存に成功しており、シナプスが構造を保って保存されていることを電子顕微鏡で確認しています。保存されたブタの脳の層状の細胞やシナプス。こういった「コネクトーム」をコンピューターで再構成することにより、記憶が蘇るのかどうかはよくわかっていません。  

たとえば「銀河鉄道999」では機械の体で人間の意識はコンピューター・プログラムとしての再生されましたし、「うる星やつらビューティフルドリーマー」では全身を休眠状態にして未来に病気の治療を委ねました。どのような方法が実際に人間の保存と再生に有効かはわかりませんが、全身を凍結保存するよりは安全に保存できる可能性が高いと考えられています。  

すでに、研究ボランティアとして献体された死亡直後の実際の人間の脳で保存実験が行われています。この研究では将来の組成に期待するのではなく、現在の技術の有効性を確認するためにガラス状態にした脳をスライスして詳細観察が行われる予定です。

生きた脳の永久保存


2018-05-17 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

コーヒーは予想以上に代謝に影響する

コーヒーには健康に良い作用、悪い作用両方が存在していますが、最近では適度な飲用は健康に良い作用の方が勝る、という考え方の方が一般的になってきました。そんな中でコーヒーを毎日摂取するとこれまで考えられていた以上に全身の代謝に影響を及ぼす可能性のあることが米ノースウェスタン大学から報告されました。これまで多くの研究で、コーヒーを摂取するとパーキンソン病や糖尿病、多発性硬化症、一部のがんなど多くの疾患の発症リスクが低減する可能性が示されています。

コーヒーを飲む習慣があるフィンランドの成人男女47人を対象に、まずコーヒーを飲まない生活を一か月過ごしてもらい、そののちに定められた量のコーヒーを毎日欠かさず飲む生活を二か月過ごしてもらいました。その間、定期的に血液を採取し、その中に含まれるたくさんの代謝産物の量の変化を調べました。

その結果、コーヒーを継続して飲むことによって性ホルモンなどのステロイドホルモンや脂肪酸代謝に関連する代謝産物など100種類以上の血液中代謝物の量が変動することがわかりました。こうした代謝産物の血中濃度の変化と健康状態のとの関係はまだ調べられていませんが、想像以上に大規模に私たちの体に強い影響を及ぼす可能性が示唆される結果です。


2018-05-16 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

生体内で神経を光刺激するデバイス

奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは、体内で神経を光刺激するための世界最小のワイヤレス型デバイスを開発しました。光を生体内の狙った部位に照射することによって生命現象を光で操作する技術は光遺伝学(オプトジェネティクス)と呼ばれ、近年飛躍的な発展を遂げています。  

オプトジェネティクスでは青色による光刺激が特に重要ですが、青色の光を体外から照射しても、体の内部まで青い光は到達しません。そこで、生体内に太陽電池を設置し、そこに向かって届きやすい赤外光を照射し体内で発電することによって、青色発光ダイオード(LED)を駆動して神経刺激光を発生させる手法が考え出されました。

生体内で神経を光刺激するデバイス

LSIを製造する技術を応用して超小型の光発電・制御チップを開発し、青色LED などと組み合わせて体積約1立方ミリメートル、重量2.3ミリグラムのワイヤレス型光刺激デバイスを実現しました。この技術により、脳科学・神経科学、ひいては創薬・医療分野の発展につながると期待されます。

生体内で神経を光刺激するデバイス 生体内で神経を光刺激するデバイス


2018-05-15 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

サルでも効能を確かめる

長野県の地獄谷野猿公苑(じごくだにやえんこうえん)はニホンザルが温泉に入る唯一の場所として有名です。サルは人間に似た行動をとりますが、まるで人間のように温泉に静かに入って温まるこの行動は、この地域に住むサルたちにのみ見られる珍しい行動です。

サルでも効能を確かめる

京都大学霊長類研究所の研究チームは、ニホンザルにとっての温泉の効果を科学的に調べました。その結果、この地域のニホンザルは、冬期に頻繁に温泉に入浴することによってストレス解消をしていることがわかりました。  

ニホンザルは長くて濃い毛で日本の寒い冬にも適応したサルです。ニホンザルの温泉入浴は、1963 年のある雪の日に旅館「後楽館」(次写真)の露天風呂にサルが入っているところが初めて観察され、海外でもスノーモンキーとして人気です。初めて発見されたときは雌の子ザルが一匹、入っていただけでしたが、この行動は他のサルにも広がっていき、2000年代には雌のサルのうち3分の1くらいが定期的に温泉を楽しみ、ニホンザル専用の露天風呂も設置されています。

サルでも効能を確かめる

研究チームは12頭の大人の雌ニホンザルについて、それぞれのサルが温泉に浸かっている時間を調べ、どのサルがより長く温泉に浸かるかを確認しました。同時に糞を採取し、糞に含まれるグルココルチコイドと呼ばれるストレスホルモンの指標物質の濃度を調べました。

その結果、雌のニホンザルは、特に寒さの厳しい時期に、頻繁に温泉に入っており、入浴行動とグルココルチコイド濃度との関連性を比較したところ、入浴によってストレスホルモンの濃度が下がることが観察されました。

ちなみに、サルの社会性と入浴との関係も調べたところ、より地位の高い雌は、より長時間温泉に入ることができることがわかりました。地位の高いサルほど頻繁に攻撃的な争いに巻き込まれ、ストレスがよりいっそうたまるために、それをいやす必要があるようです。


2018-05-14 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

秒速500メートル

スペイン・カナリア天体物理研究所の研究チームが、天の川銀河に似た他の渦巻銀河をNASAの紫外線天文衛星などで観測した解析結果から、こうした銀河が1秒に約500mの割合で大きくなっているという計算結果を発表しました。

銀河を構成する星々の年齢は様々ですが、新しく星を生み出す領域は銀河円盤部の外側の淵の部分にあるため、こうした場所で星が誕生することによって銀河は少しずつ大きくなっていくようです。

秒速500メートルといえば猛スピードのように感じますが、天の川銀河くらいの大きさになると、5%大きくなるのに30億年かかる計算です。

秒速500メートル
ですが、天の川銀河の場合、30億年後はアンドロメダ銀河と衝突直前で互いの引力によって形が崩れているはずですので、天の川銀河の拡大は感じられそうにありません。上のCGはNASAが作成した40億年後の夜空です。巨大なアンドロメダ銀河が夜空いっぱいに広がっていて、手が届きそうです。


2018-05-12 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :

飛行機で感染リスクが高い座席

飛行機の機内で他人のインフルエンザなどに感染するリスクは、患者の座席の前後1列および左右2座席以内が80パーセントと最も高く、それ以上離れた席であれば3パーセント以下とリスクは極めて低いことが、米エモリー大学の研究によって明らかになりました。  

また、インフルエンザのシーズン中にフライト中の機内の空気や座席、テーブル、トイレのドアノブなどのウイルス付着状況を調べたところ、意外なことにインフルエンザウイルスは検出されなかったものの、感染した乗務員がいた場合には、1回のフライトで約5人の乗客に感染する可能性があることも分かりました。


2018-05-11 : 科学の小ネタ : コメント : 0 :
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おびおのプロフィール

おびおがしかし

Author:おびおがしかし
会社員をしながら科学のコンテンツを作ってます。書籍とか、トークライブとか、セミナーとか、ネットラジオとか、Webコンテンツとか。でも、楽しいことしかしません。楽しいことしかできない病、TD! それがおびおなのです。
苦手な食べ物:シーチキン、レバー、昆虫系
Web:ヴォイニッチの科学書
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