Chapter-422 宇宙に関する最近の話題

天の川銀河を取り囲む高温ガスを発見

 NASAの「チャンドラ」、ESAの「XMMニュートン」、日本の「すざく」という3つのX線天文衛星のデータ解析に基づいた最近の研究で、天の川銀河は数十万光年にもわたる高温ガスに取り囲まれていることがわかりました。その温度は100万~250万度もあると推定されています。これまでも天の川銀河が暖かいガスに包まれていることは示唆されていましたが、その温度が250万度にも達することが初めてわかりました。このエネルギー量は太陽の600億個分程度に達するのではないかと推定されています。また、天の川銀河から離れると温度も低下しますが、その広がりは少なく見積もっても数十万光年、ひょっとすると周辺の銀河にまで及んでいるかもしれないと研究者らは考えています。

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2012-12-31 : 雑談 : コメント : 0 :

Chapter-421 ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース

 ブレイン・マシン・インターフェイスはたとえば、手の不自由な方が頭で動作をイメージすることによって装置を操作したり、あるいはプレイヤーがヘッドギアをかぶってゲームをプレイしたりする技術で、すでに車いすや電機製品など限られた捜査の範囲で成功しています。慶應義塾大学と企業などのチームはここにネットワーク技術を導入した「ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース」の開発を行っています。既存のブレイン・マシン・インタフェースをネットワーク型にすることで、その適用範囲を病院や実験室などの限られた空間から解き放ち、社会生活に利用可能なものへと確立することを目指しています。

ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェースを実現する技術の要素を紹介すると、

・日常的な生活をしながら脳の活動データなどをリアルタイムに取り込む技術
・そのデータをネットワーク上のサーバに蓄積しデータベース化する技術
・データベースを参照して利用者が強く念じたことを解読する技術
・解読結果に基づいて必要な機器の制御を行う技術
・これらの技術要素を組み合わせる技術

などです。

 今回の実験では、積水ハウスなどが開発した生活行動をブレイン・マシン・インタフェースでサポートするために必要なセンサーや支援機器を装備したブレイン・マシン・インタフェースハウスの中で、携帯型の脳活動計測装置を使って脳波計測と近赤外分光脳計測により捉えた脳活動に基づき、利用者の意思をリアルタイムに解読し、車椅子や家電の制御を実現しました。今回使用された脳波計測装置はすでに市販されている島津製作所製で、言語・視覚・聴覚・運動などに伴う脳活動を頭皮上から近赤外光を照射することによってリアルタイムで観測することが可能です。

 今後の超高齢化社会において、利用者の行動範囲の拡大、それに伴う介護介助の軽減などを目指して、様々な場所で携帯型脳活動計測装置を装着した多数の利用者に対して汎用的なサービスが提供される世界を目指して研究が今後も続けられる予定です。

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2012-12-31 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-418 風力発電から鳥を守る

 風力発電は、太陽光発電に比べて安価な建設費で高い発電性能が得られるメリットがあります。一方で、陸上に風車を建設する際には騒音や振動など周辺住民への悪影響が出てしまいますし、風車を建設する際には完成後は不要となる大きな道路を建設しなければならないため周辺の環境が破壊されてしまう問題もあります。また、国内でも風車が倒壊したり、羽が落下したりしたりする事故も起きており安全上の問題もありそうです。

 風車の影響を受けるのは人間だけではありません。高速で回転する風車は周辺を飛ぶ鳥にとっても脅威です。地中海の入り口に当たるジブラルタル海峡の両岸には高さ170メートルの発電用風車が非常に狭い地域に密集していますが、ここはハゲワシなどの絶滅危惧種を多く含む猛禽類がヨーロッパからアフリカに移動するルートになっているため、鳥が風車に衝突する事故が多発しています。その対策としてスペイン側の風力発電施設には生物学者が雇用され、風車に向かって猛禽類が飛んでくるのを見つけると制御室と連絡を取り、風車を止めて猛禽類を通過させています。その結果、鳥の死亡数は50パーセント減少し、一方で発電効率の低下は0.07パーセントでしかなかった、ということです。

 一方、アメリカ、カリフォルニア州の風力発電所アルタモント・パスでも同様の問題が発生していますが、取り組みはスペインとは異なります。こちらでは毎年60羽以上のイヌワシが風車に衝突して死亡していますが、これらは近隣に巣を作り日常的に飛び交っていてスペインのような対応は難しいのが現状です。

 そこで、アルタモント・パスでは古くなった発電機は早々に撤去し、大型の風車に交換して風車の数を減らす、しかも新たに建設する風車は猛禽類の行動を詳細に調査して設置位置を検討する工夫で猛禽類の死亡事故を75パーセント減らすことに成功しました。ここではコウモリの衝突も問題になっていますが、コウモリが風の強い日には飛ばないことを利用して、発電開始時の風速を秒速4メートルの風から5.5メートルの風にあげたところ、発電量は1パーセントの低下で、コウモリの事故死が93パーセントも減少しました。

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2012-12-31 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-417 月のウサギの年齢がわかった

 JAXAが2007年に打ち上げた日本の月探査機「かぐや」が収集した月の表面を網羅する200億点以上の可視赤外線反射率スペクトルを独立行政法人産業技術総合研究所が解析し、反射率が低くてクレーターの少ないウサギ型の黒い模様を形成するきっかけとなった月への超巨大衝突の痕跡を発見することを試みました。衝突溶融物に多く含まれる低カルシウム輝石の分布状況を調べた結果、月の表側に直径3000 kmもの円状に分布していることを発見し、これが、超巨大衝突によって周辺が溶けた結果できたものと考えられました。

 月の起源について、最も可能性が高いと考えられているのは、地球に巨大な天体が衝突し、そのとき生じた破片が集積して月になったとする巨大衝突説です。この説では、できたばかりの月の表面は融けた溶岩の海で覆われているとされています。「高地」と呼ばれる月の白い部分は、この溶岩の「海」が冷えて固まる際に浮上・集積してできた岩石で構成されているとされています。

 一方、「海」は「高地」の形成後に内部から噴出した溶岩が窪地に溜まって形成されたと考えられています。暗い領域の「海」は月の表側に広く存在しますが、裏側にはほとんど見られません。また過去の月探査から、表と裏では「海」と「高地」の比率だけでなく、地殻の厚さや放射性元素の分布もまったく異なることが明らかになっています。この表側ません。過去に「表側で発生した巨大な天体衝突が高地の物質を吹き飛ばして、直径3000 kmもの巨大な衝突盆地が形成され、その結果として二分性が生じた」という仮説が提案されていたものの、実際に衝突が起こったことを示す物質科学的な証拠は見つかっていませんでしたので、今回のデータ解析結果は月の起源を明確にするために非常に有用なものとなります。



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2012-12-30 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-416 錯視のメカニズム

 「誘導運動」と呼ばれる心理現象は、動いているものを見たときに起きる錯覚現象ですが、止まっている図形であっても、右に動いている背景の手前に置くと左に動いて見えるような、周辺が動いていればそれと反対方向に動いて見えるというものです。東京大学、京都大学、立命館大学の共同研究チームは、fMRIを使って、誘導運動錯覚を体験している際のボランティア協力者の大脳皮質の活動を記録して、誘導運動と相関して反応する中枢神経が存在するかどうかを調べました。

 実験では、中心部に円盤状の領域、周辺部にそれを取り囲むようにドーナツ状の領域を用意し、周辺部には、一定の速度で運動するランダムパターン画像、中心部には白黒のストライプ模様を提示しました。周辺部は一定速度で運動していますので、中心部が静止していると、誘導運動が生じて、運動している周辺部と反対方向に中心部が動いて見えます。

 fMRI 実験の結果、運動図形を提示したときに顕著に活動が高まる脳の部位を確認することができ、誘導運動知覚、つまり主観的な運動速度と脳の反応の間には相関があることが確認されました。この脳領域は背景の中から運動する対象だけを抜き出す計算をする上で重要な役割を果たしていることが推定されます。

 別の錯視についての実験では、縦方向の誘導運動錯覚を生じることによって、中心部に与えた非常に遅い運動図形が左に動いているか右に動いているかがむしろ見やすくなる、感度が増強するという現象が発見されています。このことは心理学的なコントロールでものの見えやすさが変化することを示していて、健常者に比べて感度の低下で苦しむ視覚弱者に対して、心理学の力で感度改善を将来的に実現できる可能性があり、目のメカニズムや機能の進化を解き明かすことと共に今後の研究が期待されます。

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2012-12-29 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-415 新世紀コシヒカリ

 富山県農林水産総合技術センターではDNA情報を使って次世代コシヒカリをつくる研究が行われています。DNAを農作物に利用する技術は地方の試験機関ではまだ利用がすすんでいませんが、ここではDNA情報をフル活用して選りすぐれた品種を作り出す育種戦略を打ち出しています。

 福井県の農業試験場で作り出されたコシヒカリは日本の作付面積の約4割を占めるほどの人気品種ですが、実は農家にとっては育てやすい稲ではないのです。草丈が長いため倒れやすく、いもち病などの病害にも弱い品種です。また気温が上がると玄米が白く濁り品質が落ちやすい点も近年の気温の上昇傾向のある中では不利な性質です。富山県農林水産総合技術センターではこれらの弱点を克服するために複数の遺伝子を組み込んだ改良型コシヒカリの研究を進めています。

 いもち病に強いイネと背が低くて倒れにくいイネのそれぞれの特徴に関係している遺伝子を特定した上で従来法によって交配させて苗を作り、それらの苗の中から狙った遺伝子がきちんと入っているイネを選び出すという研究を続けた結果、約3年をかけていもち病に強く倒れにくい品種改良に成功しました。現在は次の段階として高温でも品質の落ちない遺伝子が組み込まれたイネを選抜している最中です。



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2012-12-23 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

科学書籍は紙本を pdf化して使い倒す(その2)

 スキャンスナップの新型、iX500 を購入してしばらく使用してみましたのでレポします。

 その1もありますので、こちらをどうぞ

 まず、両者の見た目の比較。サイズ的には新型の方が少しい大きいようですが、机の上に置くとほとんど違いはわかりません。大きさがよくわかるように間にラゴゥを置いてみました。

スキャンスナップ新旧を並べて比較

 外観は青く光る部分が凝った意匠になりました。ちょっと色気が出たようです。パネルの開口部のノッチはちょっと動かし方に癖があって旧型の方が開閉はしやすかったです。二重送りなどのたびに開閉しないといけないので慣れが必要かも。あと、USBケーブルの本体側が今まで見たことのないような端子になっていて、旧型のUSBケーブルと共用できません。PCにUSBケーブルを挿しっぱなしにして他の機器と新型スキャンスナップを差し替えながら使うことはできないってことです。

 ローラー部分は大きく変更されています。上の写真が新型、下が旧型です。紙送りの精度が高まったそうです。・・・が、やっぱり外国の薄くてねとねとした紙質の雑誌は二重送りが多発します。国内雑誌で言えば、ナショナルジオグラフィックは苦手です。ここのところはちょっと残念なところ。ゼロックスのスキャナはナショナルジオグラフィックも正確に紙送りできるので・・・といってもゼロックスのスキャナは値段が一桁上ですが・・・次のモデルに期待です。A4ノビ対応化もついでにしてほしいです。

スキャンスナップ 新型のローラー
スキャンスナップ 旧型のローラー

 で、画質なんですけど、小説みたいな白黒は差が出ないでしょうからカラーの雑誌で比較です。
 左の写真が新型、右の写真が旧型。同じソフトで同じ設定でスキャンし、同じ画面に同時表示して画面のハードコピーを取りました。明らかに画質が違いますが、旧型は相当使い込んでいるのでセンサーの劣化かもしれませんけど。

進級スキャンスナップでスキャンしたカラー画像比較

 ソフトウエアも新しくなって、スキャンしながらOCRするので、スキャンが終わるとほぼ同時に・・・数秒後に・・・OCRも終わります。これは超快適。次々にスキャンできます。大量に自炊するときには相当な時間の節約になります。

 ちなみに、新しいソフトは旧型のスキャナにも対応しています。新しいソフトに旧型のスキャンスナップを接続すると、スキャン速度は速くなりませんが、OCRは同時に行われますので、旧型でもそうとう早く自炊できます。ソフトウエアのアップデートサービスがあるのかどうかわかりませんが、「スキャナはちょっと予算が・・・」と言われる方もソフトウエアをアップデートすると別物のように快適になります。アップデートできるかどうかは知りません。すいません。

まとめ
・ハードウエアは紙送りの精度が高まったそうですが、よくわかりません。
・ソフトウエアは劇的に良くなりました。
・USBケーブルが変わってます
・自炊量が数百冊以上で、日々自炊している方は買い換え推薦
・旧型で特に不満を感じていない人はそのままで。
・紙送りの精度向上に過剰の期待をしてはいけません。

問題なくスキャンできた雑誌(総ページ数と全文OCRすることを必ず完了までに要した時間)
・鉄道模型趣味
・電撃G's magazine
・週刊アスキー
・milsil (36ページ、50秒)
・Mac Fan
・化学

二重送りが発生した雑誌
・ナショナルジオグラフィック
・グリーンマックスNゲージカタログ(なぜか紙送りがほとんど全滅)


2012-12-22 : 雑談 : コメント : 0 :

Chapter-414 スピッツァーで究極のハッブル定数に迫る

 NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」は宇宙の膨張率を表すハッブル定数をこれまでより高い精度で測定し、結果を発表しました。

 ハッブルの法則は、遠方の銀河は天の川銀河から遠ざかっていて、その遠ざかる速度は銀河までの距離に比例して早くなるという法則です。このときの比例定数がハッブル定数で、この法則はハッブルが1929年に発見しました。このことは宇宙が一様でどちらの方向にも分け隔て無く膨張していることを示しています。

 ケフェイド型と呼ばれる光の明るさが変化する変光星の観測によって、変更周期都心の明るさは創刊していて、変光周期がわかれな真の明るさがわかるようになりました。真の明るさと見かけの明るさと比較すればケフェイドまでの距離がわかります。多数のケフェイドの距離測定結果から宇宙が膨張していることが発見されました。

 今回、米国カーネギー天文台の研究チームでは、NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」を用いて天の川銀河や大マゼラン銀河にあるケフェイドを観測しました。赤外線は宇宙空間の塵に邪魔されずに地球に届くのでケフェイドの真の明るさを正確に求めることができます。

 スピッツァーの観測から求められたハッブル定数は、74.3±2.1km/秒/Mpcとなった。これは、距離が1Mpc(メガパーセク:約326万光年)離れるごとに膨張速度が秒速74.3km大きくなる、ということを表しています。この値の誤差は3%です。3%という誤差は宇宙論に登場するパラメータの中では非常に精度の高いもので、わずか10年前には得られなかった値で、ここまで精度が高まったというのは画期的なことです。


2012-12-22 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-413 原子ナンバー113 

 元素には水素、ヘリウム、リチウムなどの名前がついていますが、そのほかに原子番号という固有なな番号が割り振られています。元素は中心の原子核とその周りを雲のように取り囲む電子で成り立っています。原子核はプラスの電荷を持つ陽子と、電荷を持たない中性子が集まってできています。原子番号はその原子核に存在している陽子の数と同じで、水素は原子核の陽子が1個で原子番号は1番、炭素は6番、酸素は8番などとなっています。これまで発見されているもっとも原子番号が大きな元素は116番リバモリウムです。元素には認定制度があって、原子番号1番の水素から112番のコペルニシウムまでは連続で元素と認定されていますが、次は間があいて、114番フレロビウム、最後の116番リバモリウムの計114種類が認定されています。

 かつて安価な元素から高価な金を作り出す錬金術が盛んに研究されましたが、そのような科学は現在では否定されています。ところが、加速器という装置を使うと新たな元素を合成して作り出すことができるのです。ロシアの科学者メンデレーエフが「元素周期表」を提唱したのは1869年のことでしたが、当時、自然界に存在する元素は、原子番号92番のウランまで発見されていました。一方で、93番以降の元素はすべて人工的に合成されたものなのです。元素は原子核中の陽子の数によって定義されます。かつては、プラスに思いっきりチャージしている原子核の中にさらにプラスの陽子を押し込むことなど不可能でしたが、加速器の発明と性能の向上によってムリヤリ原子核の中に陽子を組み込むことが可能になり、新たな元素が次々に作り出されているのです。

 原子番号が大きいと言うことは、原子核の中にプラスの電荷を持った陽子がぎゅうぎゅうに詰め込まれていることになって、陽子同士の反発で大きな元素は不安定な巨大な原子核を持つことになります。さらにその中に無理矢理陽子を押し込んで作り出された人工劇名元素はすべて、非常に不安定で1秒の数百分の1の時間しか存在することができません。また、実験で作り出される確率も非常に低いため、理屈ではわかっていてもそれを作り出すことは非常に困難です。

 2012年9月27日、理化学研究所は、2004年、2005年にそれぞれ1個ずつの合成に成功していた113番目の元素について、新たに3個目の113番元素(質量数278)の合成を確認したと発表しました。今回の合成成功は、データ不足のために未だ世界的に正式には認められていない113番元素の発見について、その発見が間違いないことをより確証づけるものだということなんです。

この話は2004年までさかのぼります。

 2004年9月に理化学研究所がそれまで未発見だった113番目の元素を合成したことを発表しました。このときの実験は、理研仁科加速器研究センターの重イオン線形加速器(RILAC:ライラック)を用いて原子番号30の亜鉛を光の速度の10%まで加速し、原子番号83のビスマスにぶつけ続けるというものでした。ぶつけた亜鉛の量は毎秒2兆5000億個、これを80日間ぶつけ続けました。その結果、やっと1個だけ原子番号113の原子を合成することに成功したのです。113番元素の平均寿命は1000分の2秒であることも分かりました。

 新しい元素の合成に成功しても、それがただの1回だけでは世界的には認めてもらえませんので、理化学研究所はさらに実験を続け、2005年に2個目の113番元素の合成に成功しました。また、ロシアの研究チームは113番よりも大きな115番元素がα崩壊という原子核が陽子を放出する現象を使って113番元素を作ることに成功しました。

 さらに、新しい大きな元素の合成を証明するには、原子核から陽子が転げ落ちるように崩壊の連鎖反応を起こして、すでに知られているより原子番号の小さな原子に変化することを確認することが重要です。この変化の際に、陽子がこぼれ落ちることによって発生する現象を観測するとで、もともとが陽子何個の元素だったのかを確認することができます。この点についても新たに合成された元素はα崩壊を連続で4回起こして原子番号105のドブニウムになることが確認できました。けれどこれだけでは依然としてデータが不足していて、日本が113番元素の合成に成功したことは国際的には認められていませんでした。

 周期表には112もの元素が掲載されているにもかかわらず、それらのすべては欧米によって発見されたものなのです。非欧米圏のサイエンスのリーダーシップを取る日本としてはなんとしても、非欧米圏初の元素を周期表に掲載したいところです。

 そのために日本としてはさらなる証拠を積み重ねるべく実験を続け、今回3個目の113番元素の合成に成功し、そのα崩壊の観測で113番元素に間違いないことが確認され、証拠の積み重ねに成功しました。

 3個の113番元素を合成するために、2003年9月以来、通算553日の照射日数と1.35×10の20乗個の亜鉛原子(重さにして15.8 mg)を費やしたということです。113番元素についてはロシアとアメリカの研究グループも命名権を主張しています。最終的にどこの国が発見したことになるかは「国際純正および応用化学連合」という国際的な委員会による今後の審議を待たなければなりませんが、最初に合成に成功し、その後も世界で最も多い3個の合成を行っている日本がその命名権を得ることは当然であろうと思われます。

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2012-12-17 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :

Chapter-412 ナノ純薬

 SN-38という既存の抗ガン剤を東北大学多元物質科学研究所の研究者らが加工して抗ガン性ナノ純薬(Pure Nano Drugs(PND))作製することに成功しました。ここでは再沈法という独自のナノ化技術が駆使されています。

 薬の効果を高め、副作用を低減させる技術としてドラッグデリバリーシステム(DDS)という手法が知られています。DDSは薬を患部にだけ送り届ける技術です。DDSは多くの場合、薬本体に患者の体の中で薬の移動や蓄積を制御する分子を結合させたり、混ぜたりしていますので、治療に関係の無い成分を多く含んでいます。それに対して、PNDは病気を治す成分だけで作られていることが特徴です。

 薬の副作用の多くは、病気の臓器だけでなく健康な臓器にも薬が作用してしまうことが原因で起きますので、ドラッグデリバリーシステムは特に抗ガン剤などで有効な手法です。今回作製した抗ガン性ナノ純薬には、ガン細胞内への浸透性が向上するという特徴が見られることが分かり、ナノ化することによって効果が高まることが発見されました。

 医薬品は一般に水となじみやすい構造にするのが有効性を高める点で有利だと言われていますが、近年は合成技術が高度化して、非常に構造が複雑で治療効果の高い分子を作り出すことが可能になり、結果として非常に水に溶けにくい薬が増えてきました。ナノ製剤化技術はこれらの新薬の水に溶けにくいというデメリットを補う非常に有効な方法であると考えられます。
 
 同様の発想の次世代医薬ではポリマーに薬を包み込む研究が一般的で、今回のようなナノ薬剤粒子に関する研究はまだまだ少ないと言うことで、世界的にも有利な日本独自の技術で次世代医薬の研究開発が進むことが期待されています。

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2012-12-15 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :
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会社員をしながら科学のコンテンツを作ってます。書籍とか、トークライブとか、セミナーとか、ネットラジオとか、Webコンテンツとか。でも、楽しいことしかしません。楽しいことしかできない病、TD! それがおびおなのです。
苦手な食べ物:シーチキン、レバー、昆虫系
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