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ヴォイニッチの科学書 第731回 セノリティクスでピンピンコロリを目指す

1990年代、がん細胞についての基礎的研究が行われる中で、年老いた細胞はがん細胞に変化することはなくなるという発見がありました。老化した細胞は、臓器細胞としての機能は正常ですが、細胞分裂しません。その結果、細胞の無秩序な増殖を特徴とするがんの進行は遅れます。 米国カリフォルニア州バック老化研究所は、がん細胞と老化細胞の関係を研究し、セノリティクスという、老化細胞除去薬(老化細胞死誘導剤)を開発しました。セノリティクスは老化細胞にアポトーシス(細胞の自殺)を誘導して除去し、動物実験では若々しさを回復させることに成功しています。人間に対する作用は2018年に臨床試験が開始された段階で、効果があるかどうかはわかっていません。  

老化の研究が進んだ結果、細胞が老化細胞になることによって、加齢に伴ういろいろな変化が起きるというシンプルなメカニズムが明確になったため、それに対処する医薬品の研究が可能になったのです。種の保存の観点からすれば、あるいは利己的な遺伝子にとっては、子供を持ったあとの親の身体はゴミ同然なので、生殖年齢上限である50歳前後を過ぎて老齢期に入ると、それまでは機能していた老化した細胞を除去するメカニズムが失われ、老化細胞が蓄積していきます。セノリティクスは、そうした老化細胞を除去することで、組織をより若々しい状態に戻すことを期待している医薬品です。  

セノリティクスが人間でも作用を発揮すれば、高齢者の病気を一つずつ治療するのではなく、老化による疾患を総合的に治療することができ、健康に長生きして、介護の負担や拡大し続ける医療費問題を解決できるかもしれません。  

セノリティクスが人間の最長寿命を延ばすかどうかはまだ不明です。人間の最長寿命は一般に115歳といわれています。しかし、老化細胞の問題を解消すれば、150年まで伸ばすことができるといっている科学者もいます。  

生物の寿命を延ばす研究を俯瞰すると、c.エレガンスという線虫で10倍、ショウジョウバエで2倍、マウスでは2~3割程度の寿命延長に成功しています。マウスと人間は近いので、人間でも1割以上は最長寿命を延ばすことが可能と考えられます。  

一方で、マウスでのセノリティクスの研究では、マウスの最長寿命の明らかな延長はなく、平均寿命と健康寿命が延長されています。つまり、マウスみんなが健康に長生きして死ぬべき年齢でコロッと死ぬ、ということです。これは現代の高齢化社会の多くの問題を解決することにつながるのではないでしょうか。


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2018-11-19 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :
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