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電子相関と高移動度を併せ持つディラック半金属

「ディラック半金属」では、「ディラック電子」と呼ばれる相対論的な運動をする電子が物性を担う性質があり、通常の物質と異なった電気伝導特性を示します。ディラック電子には
・移動度が極めて高い
・電気抵抗の起源となる不純物による散乱を受けにくい
といった性質があることから、電子デバイスの高速化や省電力化につながる可能性があります。これまで、ディラック電子はグラフェンなどの一部の物質で見られる特殊な電子と考えられてきましたが、最近の研究により、金属酸化物や磁性体などの物質でも生じることが確認されています。  

通常の金属や半導体では、伝導電子が電気的な性質を決めていますが、電子間に働くクーロン相互作用(電子相関)が強くなってくると、電子は互いに反発し合い、動きにくくなります。特に、電子相関が十分強い場合には電子は動けなくなって、物質は電気を通さない絶縁体状態になります。電子相関が強い物質は「強相関物質」と呼ばれており、高温超伝導などの機能性を示す電子材料として知られています。また、電子相関が強いディラック半金属が示す物理現象は、物性物理学の最先端の課題の一つで、既存の物質では見られない新しい機能性が期待されています。その第一歩として、強相関物質で高い移動度のディラック電子を持つディラック半金属を実現する必要がありますが、これまでにそれを実証した研究報告はほとんどありませんでした。

理化学研究所と東京大学の共同研究グループは、強相関物質でディラック半金属状態を示す候補であるペロブスカイト型結晶構造を持つ「イリジウム酸カルシウムCaIrO3に着目しました。その単結晶の電気伝導度を測定したところ、極低温の0.12K(約-273℃)において、電子の移動度が60、000cm2/Vsを超える極めて高い値となっていることが分かりました。この値は、既存の酸化物半導体ではほぼ最大値となります。  

さらに、磁場中で電気伝導度を測定したところ、「シュブニコフ・ド・ハース振動」と呼ばれる高移動度電子に特徴的な電気伝導現象が見られました。シュブニコフ・ド・ハース振動を詳しく解析したところ、ディラック電子のバンド分散(電子のエネルギーと運動量の関係)の特異点が、フェルミエネルギーのごく近傍に近接したディラック半金属状態が実現していることが分かりました。このため、電子のキャリア密度と「見かけの重さ」である有効質量が極めて小さくなり、高い移動度の起源となっていると考えられます。  

次に、この起源を探るために、電子相関を取り込んだ精密な理論計算を行いました。その結果、「この電子状態は、電子相関によってディラック電子のエネルギーが変化する」という新しいメカニズムによって生じていることが分かりました。 本研究により、電子相関が強いディラック電子がペロブスカイト型酸化物というよく知られた化合物群で実現できたことから、基礎研究や高移動度電子材料の研究開発が一層進展すると期待できます。

電子相関と高移動度を併せ持つディラック半金属


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2019-02-21 : ヴォイニッチの科学書 : コメント : 0 :
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